「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」

「頭と手を動かすワークショップ型初年次教育」

(教育課程の工夫改善を主とする取組)

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取組の趣旨・目的

専門教育への橋渡しとなる初年次教育の開発

 本学では「芸術を社会に活かすことのできる人材の育成」を教育目標として掲げており、学生たちが狭い「芸術」の枠内に留まることなく積極的に社会に出ていく環境を整えながら目標の達成を図っています。一方で、高等学校までの学校教育において芸術の時間が極めて限られており、学部の教育の質の維持、向上を図るには、芸術を学ぶために必要な基礎力と社会性を育成することが求められています。

  多様な入学者たちを対象として、芸術大学の専門教育を受けるための基盤を形成し、社会の様々な領域や場面で求められる力の基礎を育む――この命題に対して、本学では芸術教育の特質を活かしながら平成19年度から芸術学部1年次生全員を対象とした初年次教育の開発と実施に取り組んでいます。

頭と手を動かしながら体得する、4つの力/学習の基盤形成と根源的な学習動機の喚起

この取組は以下を企図して設計されています。

この取組では専門教育のための基礎として必要な力および芸術を社会に活かすための力を以下の4つに定め、実体験を通じてこれらの力を体得していきます。

【本取組で育成する4つの力】

身体性 自らの身体を把握し使いこなす力
創造力 観察し判断する力、想像し表現する力
社会性 他者との関わりを理解する力、協同で問題解決にあたる力
提案や説得を行ないチームワークを生かしてことにあたるためのコミュニケーション力
技術力 これらを実現するために道具等を使いこなし、必要に応じて新たな道具を作り出す力

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取組の内容・特徴

1年次生約770名を学科横断型クラスに編成

 本取組では、学科の異なる学生たちが互いの能力や技術を認め合い交換することによって学科内では得られない発見を重ね、さらに将来的には互いの能力や技術を持ち寄ってコラボレーションしていく土壌を作ることを目的の一つとしています。その実現のために全1年次生が入学直後から学科の垣根を越えて混ざり合うことをめざしており、運営単位となるクラスを編成するにあたっては、学部全10学科31コースの学生を完全にシャッフルし、1学年770名程度が35名×22クラスに分かれて受講する形態をとっています。

頭と手を動かすワークショップ型カリキュラム

 本取組は、学部1年次生全員が履修する科目である「ベーシックワークショップ」(前期月曜日4講時連続)と「グループワークショップ」(9月に約半月間の集中開講)の2科目からなり、入学から9月末までの半期間に集中的に行なわれるカリキュラムです。

1.ベーシックワークショップ
 繰り返しのうちに技術を身体化するプログラム、日常の観察等を編集し共有化するプログラム、個別の創意や新しい思考回路を切り開くプログラムなど、1日単位で行なうワークショップを28本掲載した教科書を、本取組のために新たに編集しました。各クラスの担当教員はそこから10数本を選んで実施します。プログラムは、ジャンルを問わず多くの本学教員や学外の専門家からの提案により80本程度を集め、そこから絞り込んで作成しました。これらのプログラムは、毎年教育効果を測定しながら、一部は差し替えを行なっていきます。
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ベーシックワークショップ・15回の進行のモデル例

目的 プログラム名 概要
アイスブレイク
(初対面同士の緊張緩和)
1 ライフライン:人生の線 これまでの自分の人生を振り返りながら、その時々で自分が幸せだったか不幸だったかを図にし(横軸に時間の流れ、縦軸に幸不幸を表現)、クラス全員の前で発表する。自己を真剣に、客観的に捉え直し明日からの生き方を考えること、またクラスの仲間を知ることが目的である。 
クラス内でのチームワークの醸成 2 阿砂利の道:山で修行する 本学の立地を活かし、クラス全員で比叡山延暦寺から本学までの道をたどる。登山するための気持ちを高めるために生活を改め、比叡山の歴史(天台宗について、修験道と密教の関係など)を調べた上で臨む。
3 マルサンカクシカク:三次元空間に描く カメラのレンズを通して見ることで三次元の空間を二次元に置き換える。現実の三次元空間に線や絵を描き撮影する。5名程度のチームごとに制作し、発表しあう。 
4 白い部屋:教室をキャンバスにする 教室内部をすべて白い紙で覆う。その中で手の動くまま、身体の動くまま、どんどん絵を描いていく。描く環境を作ること、全員で教室内部全体に絵を描くこと、最後に元の教室に戻すことを通じて、チームワークを養なう。
5 ぴこぴこ:携帯電話で上映する 携帯電話のカメラで静止画像をコマ撮りし、つなぎ合わせて一つの動きのある作品を作る作業を通して「動き」について考えを深める。演じる人、写す人が協力し合う。最後に互いの携帯を交換し合い、人の作品を鑑賞する。
6 Clean Clean Clean:掃除で魅せる 掃除を「ものと場所と関わる行為の一つ」と位置づけたプログラム。事前に各自掃除について考察を深め(場所、方法、使う道具など)、授業日は表現行為としての掃除に取り組み発表する。
7 チームワーク醸成に主眼を置いた自由枠プログラムを実施。
個人や少人数で観察力、想像力、表現力を高める 8 フレームアウト:枠の外の世界を想像する 絵画作品、写真、漫画など、周りの世界が切り取られたモチーフを探し、作者が消したり省略したりしたモチーフの外の世界を想像する。枠の外の世界を自分の感性で繋げ、広げながら表現し、発表する。
9 BACK×BACK:
。から始まる
逆再生することによって正しく再生しているかのような映像を撮る。数名のグループでシナリオを作り、道具や場所を用意し、力を合わせて撮影する。最後に発表会を行なう。
10 妄想人間:観察して妄想して考察して構想する 対象とするモチーフを決め、色や形、素材、用途などをよく観察する。観察を元に妄想し、妄想を元にキャラクターを設定する。そのキャラクターについて名前、出身地、現在の境遇と未来など細かく構築し発表する。
11 ウサギの耳:音を聴くためのレッスン 現実には聴こえないけれど自分が聴いてみたい音は何かを考える。その音が聴こえるような耳の形をデザインし、制作する。各自プレゼンテーションを行ない、最後に作品を交換し人の作った耳をつけてみる。
12 鰤コラージュ服:破壊と再構築 様々な芸術ジャンルに存在する「今あるもので新しいものを作ること」を理解するプログラム。不要な服を集め、縫い目をほどいて分解し、好きなパーツを集めて新しい服を作る。完成した服を自分で着て、コンセプトを発表する。
13 音蟲:音から蟲を創る 数名程度のチームで場所を決めて、そこで聞こえる音を集め、音の分布図を描く。集めた音を聞き、その音が鳴き声である蟲の姿を想像して描く。蟲の名前や特性を考えて地図に蟲の詳細を貼り付け分布図を作成し、発表する。
グループワークショップに向けた準備を進める 14 クラスの一体化を図ることを目的とした自由枠プログラムを実施。
15 京造ねぶた:ねぶたを作る 「グループワークショップ」では青森の「ねぶた」の、木組みと針金、和紙だけで巨大な造形物を完成させる技法を取り入れてクラス全体で大きな作品を作る。「ベーシックワークショップ」最終回ではそのための技法を修得し、「グループワークショップ」に備える。

実施プログラムは教科書から選ぶこと基本とするが、前期15回のうち2回程度は各クラスの担当教員が自ら開発したプログラムを実施することとし、高い教育効果や学生の満足度が認められた場合は次年度以降の教科書に掲載する。

2.グループワークショップ
 各クラスでの組織的な成果の達成に重点をおいた短期集中科目です。1クラス35名全員で一つの作品を作り上げる過程で、他者との関わりを理解する能力、協同で問題解決にあたる力、提案や説得を行ないチームワークを生かしてことにあたるためのコミュニケーション力などの社会性の大切さに学生自らが気づくことを目的としています。夏期休暇中にクラスごとに自主的に集まり、完成イメージを元にデザイン案、設計図製作や手順の確認などの準備を進めます。集中授業期間中は互いに協力しあいながら制作を行ないます。最終日夕方には取組に参加した学生、教職員が集まり、多くの観客が見守る中点灯式を行なって成果の達成を共有します。
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“月曜日”に全1年次生が集う

 ベーシックワークショップは開講日を月曜日としています。これは、入学直後から週の初めである月曜日に全1年次生が集い、必ずクラスの仲間や担当教員、サポーター(後述)と顔を合わせともに過ごすことで一週間の学習に弾みをつけ、通学の習慣を育成・維持する目的を持たせているからです。

クラスの質を高めるためのティーチングマネージャーの設置

 本取組の実施にあたっては、学部長の統括のもと以下のような運営体制をとっています。

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 5〜6クラスを1グループとして4グループを配置し、22クラス全体の授業の質の向上を組織的に図るために、各グループに1名ティーチングマネージャーを置き、それをワークショップ運営委員長が統括する体制としています。

  ティーチングマネージャーは専門領域を超えた4名の専任教員が担当し、プログラムやクラスの運営方法、教授法等の改善をはかる役割を担います。ティーチングマネーシャーは授業時にグループ内の各クラスを巡回して実施状況を把握し、クラス担当教員やサポーターの教育面での相談にのりアドバイスを与えるとともに、毎月曜日のベーシックワークショップ終了後にグループ内のクラス担当教員を召集しグループミーティングを行ないます。グループミーティングでは、現状を把握しながら授業改善について話し合い、日常的に授業の質の向上に取り組む体制をとっており、またティーチングマネージャー同士も常に情報交換を行なって授業の質の向上に努めています。

 クラス担当教員は、学生を教えるという姿勢ではなく、学生の自発的な行動や発想を促す役割を求められます。そのため、本取組では、担当教員を「ファシリテーター(Facilitator)」と呼んでいます。専門教育を担当する専任教員・非常勤教員などからこのような役割に適切であると判断される候補者を各学科から推薦し、クラス担当教員として配置することにより、専門教育との橋渡し機能の強化を図っています。

 サポーターは全クラスとも上級生が担当し、授業時の補助業務にとどまらず、授業情報交換のためのブログへの書き込みなどの役割を中心的に担っています。

教員と学生(上級生)の協同によるプログラムの開発と運営

 本取組の成果をあげるためには、内容・実施方法・評価方法等取組を構成するあらゆる項目において、学習者の立場にたった検証がなされることが重要です。そのため、取組の運営にあたっては、1年次生と年齢や立場の近い2年次以上の上級生の力を最大限に活かすことを試みています。

 「ベーシックワークショップ」のために開発した80本のプログラムから教科書に記載する28本を選定するにあたっては、上級生たちの「目的が理解できるか」「体験して学習効果が実感できそうか」などの視点からの意見を最重要視しています。また、それらのプログラムを、初年次生が手にとって愛着を持って活用できる教科書へとデザイン・編集するのも上級生たちです。

 さらに、上述の通り各クラスに上級生のサポーターを配しています。取組2年目に入り、初年次にこの科目を受講した学生が進級して教科書編集やサポーターとして授業に関わる体制が整い始め、学習者の立場にたった授業運営が実現しつつあります。

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